連載
浪越徳治郎先生の指圧(4)
「徳治郎先生の指圧」では、加圧点に対する移動動作と加圧動作を明確に区別しています。そのため、【徳治郎先生の指圧(2)】に記載した施術開始姿勢から即座に加圧動作が始まることはありません。もちろんその加圧法は、施術者が自身の体重を母指に移動させることによって生じる直接的な作用(作用圧)によるものでもありません。
「徳治郎先生の指圧」では、抗重力動作で行う垂直方向の加圧動作の前に、加圧点に対する推進動作で行う水平方向の移動動作を終了させます。施術者は、施術開始姿勢で加圧点を母指指紋部の中央で触れ、加圧点に対し垂直圧で加圧可能な位置まで独自の移動動作で自身の体重を母指に移動させることなく、自支し移動します。加圧動作は、水平方向の移動動作終了後から始めますが、自身の体重を母指に移動させる作用圧ではなく、加圧点に対し垂直方向から行う抗重力動作によって生じる間接的な反作用(抗重力圧)により加圧します。この間の手指操作は、あん摩の圧迫法で広く用いられている圧排動作ではなく、「徳治郎先生の指圧」独自の把握動作で行います。また、「徳治郎先生の指圧」は、加圧力を筋力に頼りません。さらにすべての操作に支点力点を定めない動作が可能です。
「徳治郎先生の指圧」では、“押す”と“圧す”を施術者の自支の有無で明確に定義し区別しています。専門的には押圧と圧迫の区別になります。しかし、“押す”と“圧す”に関し、明確に区別できない専門家も少なくないので、稚拙な例えで概説しますがお許し願います。上体を壁側に傾け壁を手掌のみで加圧している姿勢を撮影しても、静止画では壁を押しているのか圧しているのか、即ち押圧か圧迫かの区別は、自支が不可能と容易に判断できる姿勢でない限り困難です。この時、一瞬にして壁が倒れれば、自支の有無によって双方の違いが明確になります。壁が倒れた時に自らも倒れたのであれば、自支がない証拠となり押圧ではなく壁を圧迫していたことになります。もし押圧していたのに壁と共に倒れたのであれば「しくじって倒れた」ことになり、圧迫していたのに壁と共に倒れなかったのであれば「しくじって倒れなかった」ことになります。「徳治郎先生の指圧」では、仮に一瞬にして被術者が消えたとしても施術者が倒れることはありません。それは、施術者が常に被術者を押しているためです。