連載
指圧理論についての一考察(付記)
垂直とは、物理学の用語である。
人体は種々の曲面から構成されている。それを平面でとらえる幾何学では対応出来ない。(面に対して直角が垂直という)人体そのままとらえる為には、重力の方向、地球の中心に向かう方向を垂直とする考えが必要である。
そして、垂直と垂直圧は別に考えること。すなわち、垂直な圧が垂直圧ではなく、これまでの考え方を変えること。改めて垂直圧ということを指圧業界の用語として定義付ける必要がある。
『垂直圧とは、指圧点を通じ、その部位の中心に向かっての真っすぐな圧をいう。』
理論はひとまずおいて、臨床では、いちいちその部位の中心を考える必要はなく、伏臥位、肩甲下部の圧し方で(腰はぶれずに素直に動き、それにつれて母指が一定の方向へ無理なく沈んでいく)全身が圧せれば、それぞれが垂直圧となる。
浪越徳治郎先生の指圧は、名人技とも神技ともいわれ称えられてきました。
その正体は実は『力が抜けて圧せるという術だった』しかも先生はどんな姿勢でも、また受け手がどんな姿勢でも圧せてしまう。でも弟子は違う。圧し手も受け手も、力が抜ける姿勢がある。それを体で覚えることが大切である。力が抜ける姿勢でなければ『力が抜けて圧せる術』にはならない。
合気道の前身、大東流合気術に武田惣角という名人がいた。武田先生が初めて合気の術を体現した。その術とは、相手の体に触れたとたんに相手の力を全部抜いてしまうという術だった。力を抜かれては何の抵抗も出来ないで、思うがままに操られる。この術を佐川幸義という弟子が17歳の時にその原理を見抜き、修練して70歳になって初めて体得できた。力を使わないので、佐川先生は缶ビールが開けられない。師の武田先生より術が上で、3~4人一度にかかっても瞬時に力を抜いてしまう。
この合気の術より指圧の術の方がやさしいはず。知識として覚えたものを術にまでたかめて欲しいと願う。
自身の体験で、指圧の道に入って、いろいろ疑問にぶつかる。
師に尋ねると『基本に帰れ』とだけかえってくる、帰るべき基本がみつからない。20年経ってやっと伏臥位、肩甲下部にたどりつく。基本指圧の中の基本はここだったんだ。肩甲下部の圧し方で全身が圧せるようになったのは、それから更に10年は経っている。
指圧理論を書き終えて、全ての部位での圧し方が統一された。