指圧へのこだわり連載
指圧へのこだわり5:姿勢維持のための筋肉 (1) 大腰筋
大腰筋について
抗重力筋という聞きなれない熟語があります。人間の身体には、200種類に及ぶ筋肉が存在しています。それぞれの筋肉には、それぞれの役割があります。
抗重力筋は、姿勢維持筋ともいわれています。人間は、二本足歩行で生活するようになり沢山の恩恵をえました。その一方、重力に逆らい活動するための、ウイークポイントもかなり顕著に出現しています。
体の表面の筋肉(アウターマッスル)は、主に体を動かすための筋肉です。体の奥にあり、関節や骨に付着する筋肉(インナーマッスル)は、主な働きとして、解剖学的な作用はもちろんですが、身体の安定性や体のバランスをとるための筋肉として存在しています。そのような筋肉を姿勢保持筋と呼んでいます。
指圧治療における重要な筋肉として、例えば、お年寄りの老化防止や健全な心と肉体をもって寿命を真っとうさせるためにいつも覚醒させておく筋肉、そして多方面からのアプローチを試みるために何時もストレスが、特にたまる筋肉群をいつも治療経験を通じて治療師は、把握しています(例えば、阿是指圧であれば、胸鎖乳突筋、大腰筋、前脛骨筋の三筋肉)。
このスタンダードの定番筋肉に注目してアプローチすることは、一見地味な方法に見えますが、自然治癒力の維持及び促進を目的とした下地治療には、最適です。
例えば、お年寄りに対してアプローチする筋肉は、
- 骨盤底筋
- 腸腰筋
- 大腿四頭筋
- 股関節周辺の筋肉
- 呼吸筋
この5グループの筋肉は、ご老人の指圧基礎治療には、もっともも重要視される筋肉です。その中でも重要視される筋肉は、腸腰筋です。腸腰筋は、大腰筋,小腰筋、腸骨筋の3つの筋肉の総称です。その中の一つである大腰筋は、体幹と下肢を結ぶ唯一の筋肉であり、人間の身体におけるバランス(心身一如)を維持する筋肉の一つです。
大腰筋の作用のメーンは、股関節の屈曲です。骨盤を起こし正しい姿勢を保つ働きがあります。また大殿筋と大腰筋が、体の前後で、骨盤とそこにつながる背骨の傾斜を調整し、背骨の生理的湾曲を維持しています。
また大殿筋と大腰筋が、体の前後で、骨盤とそこにつながる背骨の傾斜を調整し、背骨の生理的湾曲を維持しています。
現代人、特に勤め人は、長時間のデスクワークがほとんどです。座位が長時間続きます。大腰筋は、立位の姿勢では伸展して、座位の姿勢が長ければ長いほど筋腹が委縮した状態が続き硬く強張ります。
大腰筋が縮んで硬くなってしまうと骨盤が前に傾き(前傾)し、それに伴い背骨も一緒に前に傾きます。其のままだと倒れてしまうので体は背筋を伸ばしてバランスを取ろうとします。その結果骨盤が傾斜したまま背筋を伸ばしてしまうので、胸部と臀部が突き出て反り腰になり腰痛の原因になります。
今回は、大腰筋にスポットを当て、大腰筋の作用等を列記しつつ、左右の大腰筋の筋肉検査を勉強しましょう。
治療前と、治療後の大腰筋検査を行い、どのような変化が患者さんの身体に起こったかを、知ることは、患者さんはもとより治療師も検査を通じてエビデンスを感じることができます。このことは、次回の治療の励み、そして治療方針を立てやすくすることにつながります。
大腰筋筋肉テスト
テスト① 足踏みテスト
患者さんは、立位の姿勢で、全身の力を抜いて、その場で足踏みをします。両腕は、兵隊さん歩行よろしく前後に振ります。両目は閉じてもいいし、半眼のどちらかでも構いません。足踏みを1分から、2分リズミカルに継続します。
- 徐々に足踏みを続けると、右方向及び、左方向に体の向きが少しづつ変わります。右方向に体が移動していることを確認すれば、右プラス左マイナスと判断して右大腰筋短縮と判断します。
- 徐々に足踏みを続けると、右方向及び、左方向に体の向きが少しづつ変わります。左方向に体が移動していることを確認すれば、左プラス右マイナスと判断して左大腰筋短縮と判断します。
テスト② 座位 両腕挙上テスト
患者さんの姿勢:座位
患者さんを丸椅子、及びベッドのサイドにて座位姿勢
治療師は、患者さんの背後に立位
患者さんの両腕の手首をつかみ万歳の姿勢に誘導します。軽くかつ自然に最終的に左右の手掌を合わせるように誘導します。両耳に腕のサイドが、付着しやすい方はどちらかを見て、最終的に両腕を挙上させます。
- 腕を挙上。
- 両手掌を合わせ。
- 両中指の指腹を合わせ。
短い方をプラス、長い方をマイナスと判断します。短い方を大腰筋短縮側と判断します。両腕を挙上する際、引っ張る感覚ではなく自然に挙上させます。前もって各関節の脱臼、骨折等の既往歴を質問しておきます。1、2回の挙上で判断します。
テスト③ 座位 股関節屈曲テスト
患者さんの姿勢:座位
患者さんを丸椅子、及びベッドのサイドにて座位姿勢
- 患者さんは、背骨を伸ばし頭の頂上にある百谷穴を天に向けて引っ張るイメージをもって胸郭を頭後方に持ち上げます。呼吸は、ゆっくりとした腹部呼吸を実践します。
- 息を吸い込みながら大腿の付け根から大腿前側を持ち上げます。
持ち上がる角度を計測します。両側の大腿前側を持ち上げて、持ち上げ率を観測します。持ち上がりが少ない側をマイナスと判断、持ち上がりが大きい側をプラスとします。マイナス側が大腰筋短縮側と判断します。座位にて股関節の屈曲の検査です。
仰臥の大腰筋検査の前 ― 身体のずれの修正
患者さんの姿勢:ベッドにて仰臥位
治療師は患者さんの側方に位置
患者さんの身体をセンター(軸)に誘導する操作の実践
患者さんは・・・
- 両肘を若干屈曲、肘に精神を集中
- 両踵を両肩の幅に置きます。
- 両肘と両踵に力を入れて息を吐きながら骨盤部を上方に挙上。息が吐き終わるまで挙上した状態をキープします
息を吐き切った状態を確認したら、ゆっくりと今度は息を吸い込みつつ体全体を脱力させて、骨盤をベッドに降ろします。この動作を2回ほど繰り返します。
この動作により患者さんの身体が、患者さん自身のバランスの良い位置に落ち着きました。
例えこの動作後、体が、第三者が見てセンターに寄っていなくても、やり直しはしません。患者さんが、バランスの良い身体にするために自身が操作したので、外見は、センターになくてもよしとします。
患者さんは体がストレスのない状態に、この操作によりなりました。一番身体が弛緩した状態に誘導しました。仰臥位での大腰筋筋肉検査の準部操作が完了しました。
テスト④ 仰臥位 両腕挙上テスト
治療師は患者さん頭方からの位置で、両腕の手首を固定して患者さんの両腕をテスト2と同じ要領で、頭方に挙上させます。手首の内側のライン、及び中指の爪先のラインで、長短を判断します。短い方をプラス長い方をマイナスと判断します。短い方(マイナス)を大腰筋の短縮側と判断します。
テスト⑤ 仰臥位 股関節屈曲テスト
患者さん:ベッドにて仰臥位
治療師:ベッドのサイドにて立位
- 患者さんの右側に立位。
- 左の手掌部を右の膝部の外側に固定します。右の手掌部は、患者さんの右の足首を(固定)包みます。
- 次に患者さんの右ひざの屈曲度を治療師の手掌部で調節しつつ徐々に増しつつ、股関節の屈曲度を増してゆきます。(股関節を両手で軽く固ブロックした状態を維持しつつ屈曲させます。)
- 屈曲が鋭角になるにつれて、反対側の膝裏が、緊張のためにどのくらいの屈曲度で膝裏がベッドから離れるかを観察します。
- 患者さんの左側に立位
- 患者さんの右の股関節の屈曲テストが終わったら、反対側も同じ要領で、操作をします。
- 股関節の屈曲度が、少ないうちから、反対側の膝が屈曲してしまう側を大腰筋の短縮側と判断します。
- 右(左)の大腰筋と左(右)の大殿筋の関係を見ています。
テスト⑥ 仰臥位 股関節伸展テスト
患者さんの姿勢:ベッドにて仰臥位
- 両足は、両肩と同じスタンスを維持します。踵をベッドに軽く置きます。両肘も軽く屈曲させて、ベッドに軽く置きます。
- 身体をセンターに置く準備をすでに行いました。途中までの操作は同じです。しかし今回は、骨盤全体を挙上させるのではなく、右方向そして左方向と片方ずつ上前腸骨棘を中心として身体の前方に回旋させます。
2回、及び3回行い,プラス、マイナスを判断します。マイナス側を大腰筋の短縮側と判断します。
計6種類の検査を行いました。テストの結果、同じ側にマイナスが、半分以上あれば、そちらを大腰筋の短縮側と判断します。
この操作をするにあたり治療補助の一環として治療前治療後にこの検査をします。合計5分から7分の時間をもって検査をします。慣れて要領を理解すれば、5分で完了できます。
普段、身体の使い方に問題がある人ほど、このテストは、顕著に結果が現れます。短縮側を判断することにより、両側のバランスを虚実のバランス理論で解決します。
【参考文献】
- 阿是指圧,ヒューマンワールド出版,2015
- 圧へのこだわり,谷口書店,2007