連載
浪越徳治郎先生の指圧(3)
【徳治郎先生の指圧(2)】で記載したように“母指圧迫法”では、直接的な作用(作用圧)により加圧することを特徴としています。そのため、加圧力と圧方向に一定の関わりがあり、施術者が基本姿勢を崩さずに“任意の圧を任意の方向に入れること”は原則的には不可能です。また、施術者が加圧中の施術姿勢を施術開始姿勢に戻すためには、被術者をさらに加圧し、その反動(揺り返し)を利用する外はありません。もし、加圧点に骨折等の異常を感じた場合、どのように対応すれば良いのでしょう。施術者が被術者をさらに加圧し、その反動を利用し施術姿勢を施術開始姿勢に戻すとすれば、被術者を著しく危険にさらします。施術者が自身の体重を母指に移動させている以上、被術者の安全確保は容易ではないと考えます。【徳治郎先生の指圧(2)】に記載した施術開始姿勢から、体重100kgを超える施術者が“母指圧迫法”で幼児の腹部に垂直圧を加えることを想定してください。結果は、専門家でなくとも容易に想定できますので記しません。
“母指圧迫法”に限らず、あん摩術においては、古くから腹部への圧迫法を「止め技」と称して禁じています。ですから、【徳治郎先生の指圧(2)】に記載した施術開始姿勢から腹部への圧迫法を施すことはありません。この姿勢は「徳治郎先生の指圧」の基本姿勢であり、自支を必須とする加圧動作によって生じる間接的な反作用(抗重力圧)により加圧することが不可欠となります。“母指圧迫法”の加圧法で、指紋部全体を用いた加圧を行うと指型により圧方向が異なってきます。指根部が極端に曲がらない苦手指では、突き上げ方向、指根部が極端に曲がる甘手指では、突き下げ方向となりやすくなります。また、苦手指のために指尖部、甘手指のために指根部を用いた加圧を行う施術者も稀ではないようです。さらに、指型の欠点を克服する努力は、時に壮絶なものと聞いています。
「徳治郎先生の指圧」では、指紋部全体を用いた垂直圧で加圧することを基本としています。そのため、指型による加圧動作に伴う圧方向の差異は生じません。苦手指や甘手指に関わらず、漸増で漸減な垂直圧を可能とし、その圧加減も自在とするのが「徳治郎先生の指圧」の特徴の一つです。加圧点に骨折等の異常を感じても被術者が乳幼児や老人であっても、特に加圧法を選択する必要はありません。