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合理的身体操作への導入

2016/7/25 金子孝夫(39期)

1-はじめに

合理的身体操作を理解してもらうためにも、従来の個人的感覚に対する理解を転換してもらう必要があります。
これは、合理的身体操作を実施すると、従来の感覚と異なる感覚が生じるため、自分の感覚と身体操作のリンクが合致しなくなるためです。

2-「強さ」という感覚の転換

合理的指圧操作を実践してゆく過程で、避けて通れないことがあります。
それは何かといえば、実施者の「強さ」に対する感覚の転換です。
多くのスポーツや武道等においては、「強さ」といわれるものが要求され、それを実施する者もそれ求めることになります。
しかしながら、この「強さ」というものは如何なる手段によって確認されるものでしょうか。
客観的には、武道では相手と対戦することで確かめることになります。
スポーツでは記録という物理的な数値が示すことになります。
では、本人の自身に対する判断はどのようになるのでしょうか。
曰く「手ごたえがあった」、「手や足等の自らの部位に強さを感じた」、「自分の思うように動けた」等、色々な感覚で判断することになります。
しかし考えてみてください。
例えば、ゴルフのスイングでクラブのスイートスポットに球が当たった時、テニスのスイングでラケットのスイートスポットに球があたった時「まるで素振りをしたようだった」という感想が多く聞かれます。
でも球は本人の意識とは異なり「強く打ち出されています」。
一方、本人が力を込めてスイングしたとしても、それには及ばない事が殆どです。
ここに「本人の強さに対する感覚」と「実際の強さ」との差異がある、もっといえば、強さに対する錯覚があると考えられないでしょうか。

3-感覚と実際に働く力の関係を認識するための実験

実施者の「強さ」への感覚の意識が錯覚である可能性を述べましたが、直接そのことを証明する方法はありません。
実施者自身が「自分の感覚は確かだ、なんといっても強い力を確かに感じた」といえば、その感覚自体を否定することは困難です。
そこで、「引張る」という動作を用いて、感覚と実際に働く力とを検証してみます。

強さの感覚に対する比較実験

強さの感覚に対する比較実験
(1)実験方法

感覚と実際に働く力の関係を、ゴムチューブを引張ることで、チューブの長さの変化という物理的尺度で客観的に比較してみます。

①合理的身体操作ではなく、いかにも「強く引張っている」と強く感じる姿勢でゴムチューブを引張ります。
【姿勢と操作】
両脚を伸ばして座り、顔を正面に向けます。
肘を水平方向に屈曲し、手首をやや橈屈させゴムチューブを5本の指でしっかりと握り、力いっぱい手前に引張ります。

②合理的身体操作で、ゴムチューブを引張ります。
【姿勢と操作】
プライマリーセットを維持しながら腕を外旋させ、肘を90度近く屈曲し、手首は橈屈も尺屈もさせないよう注意します。
上向きの手掌にゴムチューブをのせ、小指と薬指を締めるようにしてしっかり握り、中指と示指は軽く握り、母指は添えるだけにします。
息を吐きながら、体側に前腕が触れてゆくような感じで、肘を思い切り後方に引きます。

どちらの方法が引張るための力を有効に使っているかは、ゴムチューブの伸びる長さの変化により「強さ」が客観的に判断できます。

(2)実験結果

(1)-①の合理的でない身体操作の場合
ゴムチューブの長さは、セット時は膝のやや上あたりであり、引張り終わりの時には、膝と腰の中間あたりまで伸びました。
引張っている際、前腕の筋、上腕の筋、大胸筋および広背筋の上部まで、総ての筋が強く緊張して「強く引張っている」という感覚が生じます。

(1)-②の合理的操作の場合
ゴムチューブの長さは、セット時は膝のやや上あたりであり、引張り終わりの時には、腰の位置まで伸びました。
引張っている際は上腕の筋の上部がやや緊張した感じだけで、余り「引張っている」という感覚はありません。

4-考察

実験結果から明らかなように、「強く引張っている」と感じているほうが、引張る力は有効に使われていません。
引っ張りの動作にブレーキが生じていると推定できます。
この状態で、身体に生じるブレーキを「強さ」と錯覚しているのではないかと思われます。

 

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