連載・特集
合理的な身体操作のための「プライマリーセット」(12):
- 2016.02.13
- 2024.09.20
1. 骨格系支持と筋肉系支持の相違
骨格系支持と筋肉系支持の相違が顕著に現れるのは、肩関節と股関節です。そしてそれに次いで顕著なのが肘関節と膝関節となります。ここでは、肩関節の支持の比較実験を実施してみます。
2. 肩関節の支持の比較実験について
肩関節を通常の筋肉系支持(これが普通)とプライマリーセットに基づいた骨格系支持の2通りで、力を受けた状態での支持の相違を確認してみます。
(1)筋肉系支持における力に対応した肩関節
- 両膝を合わせて膝立ち姿勢をとります。
- 深呼吸と伴に両腕をだらりと落として自由にします。
- 手掌を上向きにして、両腕を肩関節を軸として力みを生じない範囲で水平に近づけます。この場合、両腕はほぼ水平位置になります。そしてその位置を保持できるだけの力で両腕を支えます。
- その上向きの両手掌に、補助者が手掌を重ねて体重を加えます。
- 両腕を保持できるだけの力では、補助者の体重を支えることは全然できません。
- 補助者の体重に対抗して、両腕で保持しようとすれば、肩関節周囲や背中の筋肉および上腕筋に多大な負荷が生じるのが実感できます。
- このように、筋肉系支持では自らの肩関節に加えられた負荷に対しては、肩甲骨に停止する筋群と上腕筋等で支える必要があります。
(2)骨格系支持における力に対応した肩関節
- 両膝を合わせて膝立ち姿勢をとります。
- プライマリーセットを実施します。
- 手掌を上向きにして、両手の指先を肩関節を軸として力みを生じない範囲で水平に近づけます。この場合、両腕は水平よりやや下がった位置になります。そしてその位置を保持できるだけの力で両腕を支えます。
- その上向きの両手掌に、補助者が手掌を重ねて体重を加えます。
- 最初に完全な骨格系支持になるため、ほんの少し両腕が下がりますが、それ以降は、両腕を保持できるだけの力で補助者の体重を支えることができます。
- 補助者の体重は、肩関節の肩峰を通じて鎖骨から全身の骨格で保持されるため、肩関節周囲の筋群には殆ど負荷が生じません。
- このように、骨格系支持では自らの肩関節に加えられた負荷に対しては、両腕を保持するための筋力で対応可能です。
3. 考察
上記の実験からも解るように、プライマリーセットに基づいた骨格系支持の状態を維持していれば、肩関節に加わる力はグローバル筋を殆ど利用しないで支持することが可能となります。このことが、一般に言われるところの「力を抜いて~」に相当すると考えられます。それ故、この状態を維持していれば、肩関節に関わる筋群及び上腕筋類を最も有効に使用できます。筋肉系支持では、肩関節に加わる力を肩甲骨に停止する筋群や上腕筋類で支えなければならないため、肩関節や上腕筋類を最も有効に使用するのは難しくなります。