連載
無意識シンクロと身体操作について
1. 無意識シンクロについての実例
無意識シンクロは、プライマリーセットを維持している身体が、何事かを実行しようとするとき、身体全体を無意識下でその目的に合致するように最適に動かすことを意味するものと定義しました。
この実例を以前無意識シンクロの解説をしたときに紹介しましたが、今回は別の実例で示してみます。
その動作は、よくテレビ番組等で紹介される身体の柔軟性を調べる時に用いられる「身体の前屈」又は「身体の柔軟性」と言われるものです。
2. 身体の柔軟性について
よく知られている動作で、両脚を伸ばしたままで身体を前屈させて、指先が床面を基準として、床面より上ならマイナス、床面より下ならプラスで何cmであるかを測定するものです。
よくタレント等が実演して、床面に指先が届かない場合には「身体が硬い」床面に手掌が着くような場合は「身体が柔らかい」といわれます。我々はこれらを当たり前のこととして納得していますが、果たして本当にそうでしょうか。
確かに人体は、体中の筋肉を鍛えることにより、その稼動範囲は拡大します。解りやすく言えば「身体はより柔軟」になります。また、加齢により筋肉や脊柱の椎間板の硬化等で柔軟性は低下します。
しかしながら、同程度の年齢で共に特に鍛えていない身体の柔軟性が著しく異なるというのも、人体の構造上から考えて少々納得できない面があります。
では、何故にそのような柔軟性についての差が生じるのでしょうか。
私としては、個々の動作に対する質に差異があるのではないかと考えます。身体が「硬い」といわれる人の動作には、動作に対する抵抗が大きく、身体が「柔らかい」といわれる人の動作には、動作に対する抵抗が小さいのではないかという可能性が考えられます。つまり、プライマリーセットが関係していると考えられます。
3. 体の前屈に対する実験
上記で、身体の「硬い」又は「柔らかい」の差は、身体操作における動作の抵抗の差異ではないかと述べました。
そこで、同じ人に身体動作に対する抵抗を限りなく排除した「プライマリーセット」を維持した状態での前屈動作と、そうでない状態での前屈動作を比較してみることにします。
(1) プライマリーセットを実行していない状態での前屈動作
- 両脚を揃えて目線を水平にして立ちます。
- 息を吐きながら両腕をリラックスさせます。
- 上半身を股関節から折り曲げ、腕を伸ばして指先を床に近づける動作をします。
- 上体の折り曲げが限界に達したところで、指先と床面の距離をみます。
- 写真に示したように、指先と床面はかなり離れています。
- この状態では、この人の身体は「硬い」と判断されます。
(2) プライマリーセットを実行していない状態での前屈動作
- プライマリーセットを維持した状態にします。この場合、両脚を揃えて立ち、締め腹、頭項接点伸展、肩甲骨下方回旋、肩関節リセットを実行維持することになります。
- 上半身を肋骨弓の下側から折り曲げ、腕を意識せずに、指先のみを意識して床面に近づける動作をします。
- プライマリーセットを維持した状態では、股関節を曲げる動作は難しいので、このような屈曲の動作になります。この動作を実行中に、無意識シンクロにより必要なだけ股関節は自ら曲がることになります。
- この状態で上体を折り曲げてゆくと、写真で示したように手掌が床面に着きます。
- この状態では、この人の身体は「柔らかい」と判断されます。
4. 無意識シンクロについての実例
この実験のように、同一人物でプライマリーセットの有無で前屈動作をした結果が大きく異なりました。これが総てではありませんが、他の人達でも確認ができました。
つまり、プライマリーセットにより生じる無意識シンクロがいかに身体の動きを効率的に制御しているかが解ると思います。
この結果が普遍的に正しいかは別として、各々がプライマリーセットを維持した状態と、そうでない場合での前屈動作を自ら実行してみて、身体の動きに差異があるかどうかを確認してみてください。
※プライマリーセットに興味をもたれた方は、
日マ指圧マッサージ会 会長:小谷田作夫までメールをお願いします。
メールアドレス:siatu-koyata@beach.ocn.ne.jp