連載
浪越徳治郎先生の指圧(20)
動物脳が担う情動は、植物脳が担う自律神経に著しい影響を与えます。また、荒ぶる情動を理性脳が担う思考や情操でコントロールすることは容易ではなく、情動と情操の摩擦が交感神経にさらなる正のフィードバックを起こさせていても、潜在意識に潜めば自覚さえもできません。指圧の適応症となる疾患の治療において、荒ぶる情動への対応はことのほか重要と考えます。
情動は、思考や情操より視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といった五感への刺激に強く反応し従います。また、五感のそれぞれが互いに影響し異なる結果を情動に与えます。また、怒りや恐怖等と共に記憶(学習)された五感刺激に対しては、条件反射的に情動が荒ぶることも稀ではありません。さらに、鼠が天敵である猫を見たことがなくても猫の声や臭いに怯えるように、未経験の五感刺激でも情動は顕著に反応します。御来光を仰ぎ見ることや森林浴でさわやかな気分を味わうこと、風鈴の音色や秋の虫の声に風情を感じること、一服の煙草や一杯のビールに至福の時を感じること等は情動が大きく関わっています。
情動への対応という観念が存在したか否かは別として、古来より視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といった五感刺激による健康法や伝統医療が存在します。その代表的なものといえばアロマテラピーや音楽療法が挙げられます。また、これらによって慢性疾患や運動機能障害等が劇的に改善されたという報告も少なくなく、癒し系と呼ばれる香りや音楽を用いる施設も増加しています。しかし、私は治療室内で香りや音楽を用いることを勧めません。それは、香りや音楽が患者の情動に複雑な影響を与えるからです。仮に癒し系と呼ばれるものであっても、怒りや恐怖と共に記憶されていれば危険です。一例ですが、戦争体験の有無により戦争映画等で耳にする空襲警報音が情動に与える影響は著しく異なります。また、香りや音楽によって荒ぶった情動は、引き金となった香りや音楽を止めても、他の香りや音楽に切り替えても瞬時に治めることは容易ではないと考えます。「徳治郎先生の指圧」では任意の圧を任意の時間任意の方向に入れることが可能となります。そのため、潜在意識に潜む情動の変化でも筋緊張や心拍数等で読み取る診断が可能となり、それらに対応した治療を瞬時に行うことが可能となります。これが、徳治郎先生の『診断即治療』です。